刀@きんぎょばち 

僕の隣には
金魚鉢がある

金魚鉢は
いつも傍にあって
キレイな金魚が泳いでる
黒の金魚と
赤の金魚
ヒラヒラと泳いでる姿を見るのが
好きだった

僕の前で
金魚が楽しげに泳ぐと
僕の気分も楽しくなり
金魚が優しく泳ぐと
僕の心も優しくなった

僕と金魚鉢だけしか
存在しない部屋
静かに泳ぐ
金魚を見ていた

そんな中
急に
僕の手に
冷たい水があたった

金魚鉢から
水が溢れ出ている

確かにこぼれているのに
無くなることなく
溢れ続けている

必死で水を抑えようと
自分の手でかばっても
無限に流れ出す水が
僕の手の間を
通り抜けてゆく

次第に
黒の金魚と
赤の金魚は
水と共に流されていった

暗闇の中落ち
消えていった

抑えきれない水と
流れ落ちてゆく金魚

結局僕は
立ちすくむしか
見ていることしか
できなかった

水の溢れが止まった頃に
そこに残ったものは
空の金魚鉢と

ただ見ていただけの

無力な僕だけだった